第22回先端技術大賞授賞式
領域を超えた研究広がる
(2008/7/17 東京・丸の内 パレスホテル)

玉井文部科学審議官奄ゥら賞状を受け取る神戸大学の京極さん
優れた研究成果をあげた理工系学生や企業・研究機関などの若手研究者を表彰する「第22回独創性を拓く 先端技術大賞」(主催・フジサンケイビジネスアイ)の授賞式が17日、高円宮妃殿下をお迎えし、東京都千代田区のパレスホテルで開かれた。
式典では、最先端のヒトゲノムの研究で文部科学大臣賞(学生部門最優秀賞)に輝いた神戸大学医学部の京極千恵子さん、がん治療の基盤となる次世代断層撮影技術の開発に挑み、経済産業大臣賞に選ばれた東北大学多元物質科学研究所と古河機械金属の共同研究チーム(代表・吉川彰氏)をはじめ、各賞受賞者に賞状と賞金が贈られた。
審査委員長の阿部博之・東北大学名誉教授は「特定の学問領域に当てはめることができない複合的な研究が目立った。現代の技術開発を象徴する動きとの思いを強めた」と講評。また、あいさつに立った文部科学省の玉井日出夫審議官は渡海紀三朗文科相の祝辞を代読し「受賞を契機にさらに研鑽し、国内はもちろん国際的にも活躍してほしい」と要望。経済産業省の西本淳哉大臣官房審議官は「研究開発の成果をスピーディーに実用化に結びつけ、イノベーションの創出を加速する必要がある」との考えを示した。
■高円宮妃殿下お言葉(要旨)
受賞された皆さま、本日は誠におめでとうございます。今回グランプリに輝いた研究論文は、学生部門、企業・産学部門ともに、医療に関連するものでした。
東洋医学、西洋医学、さらには、かつて栄えた固有の文明に発展した医療も含め、共通するのは、研究にあたった人々の、命を守りたい、という熱い思い、そして、疑問を解明したいという科学の心ではないかと思います。受賞された皆さまも、同じような気持ちを持って、それぞれのテーマに挑戦され、輝かしい成果を挙げられたのではないかと推察致します。
学生の科学離れが懸念されるなか、夢を現実のものにする科学技術の偉大さや、あふれるロマンを中学生や高校生にも、伝えていただければと思います。
いま、私たち地球に生きるすべての生命体は、気候変動という大きな問題に直面しております。化石燃料の使用、エネルギーの確保、人口が増え続ける中の食糧難などという問題も抱えております。科学技術が果たす役割は、今後ますます大きくなって参ります。
科学技術を志した皆さまにまずお願いしたいのは、学問領域や国境を越えて、力を合わせてほしいということです。
加えて、家庭や教育現場、そして社会において、私たち皆が、きちんとした理念を持った若者を育てることは、人類の将来の安全保障だと考えます。
受賞された皆さまの今後の活躍を期待致しまして、あいさつと致します。


■喜びの声
疾患の遺伝子解明へ
文部科学大臣賞
神戸大学医学部
京極千恵子さん
本日はこのような大変光栄な賞をいただきまして、誠にありがとうございます。
今回賞をいただいた研究は、私が現在所属する神戸大医学部で行ったものです。私はリューマチ性疾患の遺伝子研究というものについて、ここ10年来取り組んでおりまして、東大と留学先の米ミネソタ大、神戸大で携わってきました。それぞれ理解のある指導教官にも恵まれ、楽しく自由に研究を行うことができました。今回の賞は、このような研究の成果に与えられたものと認識しており、非常にうれしく思っています。
人の疾患の遺伝子に関する研究は、お金と時間と労力を要するものです。何よりも患者の研究に対する理解とご協力が不可欠で、それによって初めて研究が成り立ちます。 これからも、医者として研究者として、精力的に取り組んでいきたいと思っています。
産学連携 理想の成果
東北大学
多元物質科学研究所
吉川彰氏
このような素晴らしい賞をいただいたことに感謝しています。今回の研究は、がんの早期発見につながる医療画像装置、PET(陽電子断層撮影装置)のセンサー性能を制御する、高性能の材料を開発したというものです。
材料の開発にとどまらず、2次元の画像解析を可能にするところまで発展させた点が、評価されたと思っています。
研究では、東北大学が素材や反射材の開発という基礎研究部分を担い、古河機械金属が素材の高品質化といった分野に注力し、理想的な産学連携が実現しました。
素材の開発から3年を待たずに、装置への搭載プロジェクトがスタートしました。それから2年の期間で、装置の完成にこぎつけたのは、教育体制のおかげです。
今後も、常に実用化を念頭に置いて、新たな技術開発に取り組んでいきます。
■記念講演

■略歴
吉川弘之氏
〈よしかわ ひろゆき〉
東京大学工学部卒業。同大工学部教授、工学部長などを経て、1993年東京大学総長。97年日本学術会議会長、98年放送大学学長。2001年から産業技術総合研究所理事長。74歳。
「時代の精神」見据えた研究を
産業技術総合研究所理事長(元日本学術会議会長) 吉川弘之氏
人類は、科学的な知識によって自らを守ることに成功し、次第に強いものとなってきた。技術は豊かさを増すものになったが、現代の私たちは、地球温暖化問題、資源の枯渇、生物多様性の喪失、食糧不足など、新しい問題に直面している。
これら現代の問題を克服するには、政治や経済、一人一人の認識が大事だが、最終的には技術の形で立ち向かわなければならない。科学的知識を深め、技術を作り出すことを通じてしか、問題を克服できない。
その技術にはどのようなものがあるのか。(これまで)豊かさを実現してきた技術、それらをさらに適用すればそれだけですむのだろうか。もっとも大きな違いは、現代の問題は、われわれ自身が原因を作り出している、いわば内なる敵に対峙しなければならないことだ。
伝統的な領域知識の単純な適用では現代の問題を解決することはできない。幅広い知識を持つべきである。研究者は、他の分野の人と対話し、協力することを身につけなければならない。目標について深く洞察し、長い間のたくさんの科学的な基礎知識を再構成し、現代の問題に立ち向かうべきだ。
人々によって合意された一つの目標、「時代の精神」ともいうべきものを背景として生み出された技術が非常に大切だ。今回の受賞者の研究内容は、まさに時代の精神を反映しており、非常にすばらしく、明るい将来が待っているように思える。

経済産業大臣賞を受賞した東北大学の吉川彰さん(左)から説明を受けられる高円宮妃殿下
■医療の「夢」に挑戦 記念レセプション
授賞式に続いて開かれた記念レセプションでは、高円宮妃殿下が会場に展示された受賞論文のパネルを前に、未来への情熱と斬新な発想によって生まれた研究成果の数々について受賞者から直接説明を受けられた。
複数の要因によって引き起こされる「全身性エリテマトーデス(SLE)」と呼ばれる自己免疫疾患にかかりやすくなる原因遺伝子の探索研究で、文部科学大臣賞に輝いた神戸大学医学部の京極千恵子さんは「SLEにかかると免疫力が自分の身体を攻撃するようになります」と疾患のメカニズムなどを説明。今回の研究成果によって「SLEの予防や診断、個人にあった治療に向けた可能性が広がります」と医療技術の夢に向かって目を輝かせると、高円宮妃殿下は「すばらしいです」と高く評価された。
また、次世代のがん治療に活用が期待される高解像度のPET(陽電子放射線断層撮影)装置の開発で経済産業大臣賞を受賞した東北大学多元物質科学研究所の吉川彰さんから、磁場を用いた検査などについて説明を受けられた。高円宮妃殿下はPETによるがん検査の知識が豊富で、時折鋭い質問を投げかけながら興味深く話を聞かれていた。
前回の先端技術大賞で経済産業大臣賞に輝いたNECの広崎膨太郎執行役員副社長は「昨年受賞した研究チームは賞に刺激され、新しい課題に挑戦している。きょう受賞された方々も、ますますイノベーション(技術革新)に磨きをかけてほしい」とあいさつ。乾杯の音頭を取った。
会場には受賞者の指導教官や企業関係者、各界で活躍するこれまでの受賞者らも加わり、未来を切り拓く科学技術について熱く語り合う歓談の輪が広がった。
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